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生産者からみた契約取引の実態と課題 -アンケート分析による-

【はじめに】

契約取引を実施することにより、実需者は必要とする野菜の規格や数量の確保などができる。また、生産者は収入の安定化を見込むことができ、さらに実需者のニーズを把握することで、品質の向上が図られる。

しかし、実際には契約取引を交わす機会が少なく、契約取引は限定された条件を満たした生産者でしか導入されていないのが現状である。ここでは、生産者を対象としたアンケート調査によって、契約取引の実態と意向について検討する。

そこで、契約取引において、生産者がどの様な手段を講じれば農業経営の安定化を図れるかを考察していく。

そのため、契約取引を実施することとなった契機、契約取引を実施することで経営にどのような影響を与えたのか、また、問題としてどのようなものが挙げられているのかを明確にする。

アンケートの対象地域には、契約取引を実施している長野県 川上村と、㈲ユニオンファームが所属する、いばらき農産物流通研究会(以下、農流研と表記)を取り上げた。

また、契約取引を導入している地域と比較して、契約取引が取引方法としてどの程度農家に受け入れられているのかを明確にするため、一般の地域として茨城県の城里町を取り上げ、アンケート調査を実施した。

 

【アンケート調査の概要と回答者の属性】

1.調査目的

このアンケートは、生産者及び農業法人が契約取引についてどのように考えているのかを調査することを目的とする。

2.調査方法

組織の代表者にアンケート用紙を配布し、回収していただいたものを、研究室員が集計したものである。

・調査時期

両アンケートともに、2007年9月15日~10月7日

・調査対象

いばらき農産物流通研究会(以下農流研と表記)

茨城県城里町の専業農家、兼業農家

長野県川上村の専業農家

・配布部数: 農流研:20部  城里町:50部   川上村:50部

・有効回答数: 農流研:12部  城里町:43部   川上村:43部

・回答率: 農流研:60%   城里町:86%   川上村:86%

3.回答者の属性

性別 農流研 男性:12名 100%

城里町 男性:30名(69.8%) 女性:13名(30.2%)

川上村 男性:37名(88.1%) 女性:5名(11.9%)

回答者の属性のうち、農業経営形態において、専業農家が多い地域と兼業農家が多い地域とに分かれ、それぞれの地域性が出ていることが分かる。

経営耕地面積は、専業農家率が高い地域では3ha以上の経営形態の生産者が多く、国内の農地平均と比較すると規模の大きい生産者が多いことが分かる。農業後継者の有無は約50%の地域が多く、農業後継者の確保ができているといえる。

 

【アンケート分析 】

◆問1 契約取引を実施していますか。

 

川上村では大規模経営で行っている専業農家が多く、

一定の供給量を確保できることから契約取引を実施できると考えられる。

 

また、農流研では組合で契約取引を実施しているため、割合が高い。

一方、城里町では兼業農家が多いため、経営規模が小さく、

契約取引以外の取引が多いと考えられる。

 

「いいえ」の回答結果

 

契約取引を実施しない理由として、

「市場出荷のみで十分」と回答する農家が38%と最も多かった。

 

また、続いて「契約取引の始め方が分からない」との回答が多かったことから、

実施したくても、始められないという生産者が多いことが読み取れる。

 

◆問2 契約取引を実施する理由を教えてください(複数回答可)。

 

「安定した価格で出荷できる」が最も多く、

契約取引のメリットによって経営方法を変えた生産者が多いことが分かる。

 

次に「知人からの紹介」が多いことから、

実需者と交流する機会が少ないことがうかがえる。

 

また、知人を増やすことによって、

不作時などのトラブル時にも賄い出荷が可能になる。

 

◆問3 契約取引での取引先はどのようなところですか。

取引先の数、契約年数を教えてください。

 

(1)  契約先の種類(加工業者・卸売業者・小売業者・農協とする)

 

+加工業者

1種類 =>18

2種類 => 12

3種類 => 4

4種類 => 1

 

+卸売業者

1種類 =>10

2種類 => 3

3種類 => 3

4種類 => 1

 

+小売業者

1種類 =>17

2種類 => 14

3種類 => 4

4種類 => 1

 

+農協

1種類 =>6

2種類 => 1

3種類 => 1

4種類 => 1

 

契約種数は1種類との回答が多いことから、

近年、契約取引を開始した農家が多いと考えられる。

 

 

(2)  契約取引での契約件数

 

契約先の数としては1件との契約が多い。

これは出荷量が少ないため複数との契約取引ができない、

または契約取引を開始したばかりであるためと考えられる。

 

また、複数との契約をしている場合は、

1件の取引先と契約するのではなく複合的に契約を実施することによって、

安定した販売先の確保を目指したものと考えられる。

 

 

(3)  業種別契約年数

 

農協、加工業者では1年未満が多いことから、

近年契約取引を実施するようになったこと考えられる。

 

また、小売業者、卸売業者では契約年数が長いことから、

契約取引が円滑に行われていると考えられる。

 

問3 あなたが契約している農産物を教えてください。

 

(1)川上村

川上村では多くがレタスと、白菜を契約していることが分かる。

このことから、川上地区ではレタスの産地として

契約先から認識されていることが考えられる。

 

(2)農流研

農流研では、多品目で契約取引を実施していることがわかる。

これは、有機野菜の商品特性から、

ある程度品目を揃える必要があるためといえる。

 

(3)  城里町

城里町では、地域ごとに作物が異なり、さまざまな作物を契約している。

また、城里町ではダイコン、白菜、ホウレンソウなど、

寒さに強い作物が多いことから、秋から冬場にかけての取引が多いと考えられる。

 

問4 契約取引の割合はどのくらいですか。

 

城里町での契約取引の割合では100%との回答が多い。

城里町では兼業農家数が多いため、

付加価値の高い農産物を多く生産し、量販店に人気があると考えられる。

 

また、専業農家の多い農流研、川上村では70%以下の割合が多いことから、

不作時の対策として100%での契約取引は交わしていないと考えられる。

 

問5 天候不順など、契約数量が確保できない場合の対処法はどのようにしていますか。

 

契約数量が確保できなかった場合の対策として、

約80%が生産者グループ内で賄い、対応していることがわかる。

 

これは、実需者が求めている生産者、

生産過程が不明確になることを防ぐためと考えられる。

そのため、市場からの購入という方法は行わず、出荷の停止という対策を取っている。

また、その他での回答では、「生産した量を全て出荷する」との回答が多かった。

 

問6 契約野菜安定供給制度は使用していますか。

 

制度を使用しているとの回答は少なく、

知らない・使用していないと答えた生産者がほとんどである。

契約取引を行っていても、制度についての認知度は低いと言える。

 

問7 契約取引により、経費などの削減にはつながりましたか。

 

「はい」が多いことから、契約取引によって経費の削減につながっているといえる。

具体的には出荷の際の箱代の削減、出荷時間の削減などの意見が多いことから、

出荷時に大きいメリットがあることが言える。

 

問8 始める前後で経営内容が変化したものを選び具体的に教えてください。

 

契約取引を実施するようになり、収益が変化したと回答する生産者が最も多く、

続いて農薬、技術、品目が変化したと回答する生産者が多い。

 

契約取引を実施している全60戸の生産者のうち、ここでは83個の回答を得たことから、

一戸辺り一つ以上の変化が生じていることが分かる。

 

問9 契約取引により産地の振興(地域活性化)に、つながったと感じますか。

 

産地の復興(地域活性化)につながったと考える生産者は約60%であり、

契約取引がその地域での農業を盛んにし、

地域の活性化につながっていると考えられる。

 

問10    契約取引を実施する上で契約先と意見の相違等の問題は発生していますか。

 

契約取引による問題は、城里町、川上村でのアンケートでは約50%あるのに対し、

城里町では無いという結果になった。契約取引で発生している問題としては、

安価な価格、出荷数量などの問題が多い。

 

問11   今後、契約取引を増やす考えはありますか。またその理由を教えてください。

 

契約取引を増加させようと考えている生産者は、全体の約20%となっている。

多くの生産者が比率を増やそうとはせず、現状を維持していこうとする考えが多い。

 

「いいえ」と答えた理由では、比率ではなく、規約数量を増やすとの回答や、

人手が足りなく行えないといった意見が挙げられた。

 

☆補足:中国人研修生

 

今回、アンケートで取り上げた長野県 川上村では経営のための労働力として、

外国人研修生の受け入れを行っている。

 

中国人研修生の受入れにより、

経営にどの様な効果をもたらしているのかをアンケートの結果により明らかにする。

 

 

問12     中国人研修生を受け入れていますか。また、年間何人ほど受け入れていますか。

 

アンケートの結果、80%の生産者が中国人研修生の受入れを行っており、

受入れている人数はほとんどが2人ということである。

 

受け入れる理由としては、やはり安定した労働力が確保できるという理由が多い。

また、研修生を受け入れることによるメリットとして、

経費が安い、真面目に作業に取り組むなどが挙げられた。

 

逆にデメリットとしては、人数の確保、言葉の問題、期間の問題が多く挙げられた。

 

契約取引に対しての契約農家からの意見 】

主な意見としては、

・市場に比べて取引価格が4~5倍高いのでビックリした。

(女性 60代 専業農家)

 

・すべて契約が良い。

(男性 30代 専業農家)

 

などの契約取引のメリットや、

 

・経営の安定化のためには契約取引、契約販売は必要だと思っています。

また、今の経営を維持するためには安定した労働力の確保が必要です。

(男性 50代 専業農家)

 

・確実な労働力な確保が課題です。契約栽培はこのままの比率だと思います。

(女性 40代 専業農家)

 

などの様に契約取引での課題を挙げる意見も多く見られた。

 

また、

・労働に見合う収入で、あるようにしたい。企業も自分の儲けも大切だけど、

生産者の手取りの額も考えて欲しい。

(男性 60代 専業農家)

 

・JA、市場、全農等に経費が掛かり過ぎる。

(男性 50代 専業農家)

の様な取引先(市場出荷)に対する意見も聞かれた。

 

【まとめ 】

契約取引を実施している生産者を対象とし、契約取引を実施した背景や農業経営にどのような変化が生じたのかを明らかにしてきた。

契約取引は安定した価格での出荷が可能なため、広がってきたと考えられる。特に、価格低落基調の影響による、価格の安定化を求める生産者が多くみられた。

契約先の傾向としては、小売業者・卸売業者・加工業者の順に契約数が多く、契約期間もそれぞれ10年以上のものから1年のものまで分散している。

全体の傾向として、1年未満から1年の契約が多いことから、契約取引が近年、増加傾向にあることがわかる。

契約取引によって農業経営にも利益率の変化が生じた。さらに契約取引だけを実施するではなく、市場出荷と契約取引と結合した経営形態をとっている生産者が多くみられた。

契約取引において、経営面での変化は、収益の安定化が図られたこと、さらにダンボール代金の削減や規格の簡素化による労働力の削減が多く、経費面に加え労働面にも効果があることが指摘された。

しかし、契約取引の特徴として供給を安定的にしなければならず、全体の労働量が増加したことや栽培方法が変わったことによる

労働の変化があったなどの声も聞かれた。

 

安定供給の面に着目すると、天候の変化など、契約取引に支障が生じるような場合は、生産者間での補てんで対応することが多くみられ、市場から購入して代替品を出荷することは皆無であった。

さらに、生産者間での契約数量を確保できない場合は、出荷停止措置をとっている生産者もみられ、契約取引における供給量の安定は、今後の課題でもあるといえる。安定供給を図るための行政の政策の一部として契約野菜安定供給制度が挙げられるが、この制度に加入している事例が少なく、生産者に認知されていないことがわかった。

この制度を使用することによって、安定供給の促進が期待できることからも認知度を広げていくことが課題であるといえる。

今後、契約取引を増加させようと考えている生産者が20%と低水準なのも、安定供給の問題があると考えられるため、制度の浸透は不可欠であるといえよう。

今回のアンケートでは、補足として、供給の安定化を図るための農業労働力の確保の観点から、長野県の川上村での中国人研修生の受入れについて回答をいただいた。

中国人研修生は、労働生産性が高く低賃金での労働を行ってくれることから、川上村では増加しているということだが、今後の対策として、労働時間の増加や国内の農業生産技術の漏洩につながるのではないかといった課題点もみられることから、労働力の安定化を図るために、国内の夏季限定アルバイトと研修生のバランスを保つことが必要であるといえる。

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